研究
支援ロボット
当大学歯学部では、現在、『昭和花子』の開発の技術と経験を生かし、人工知能を組み入れた『診断支援ロボット』を考案しています。
試作機は映画『スターウォーズ』の『R2-D2』のような外見で、待合室まで動いて患者様に「○番のブースにお入りください」と案内します。予算の都合上、現段階では案内ロボット程度ですが、SFのように「ああだったらいいのに」という世界を実現すべく、さらに高度なものを開発しようとしています。
大切なのは、「矯正歯科治療は痛くて当たり前」のように、いまの「当たり前」をベストとする考え方に疑問を持つことです。ただ治療するだけでなく、「治療期間はもっと短縮できるはず」など新たな可能性を視野に入れ、先端技術を駆使して一歩先行くものを生み出すこともできるのではないでしょうか。
歯科分野から革新的なものを生み出せるよう、当大学歯学部はこれからも挑戦を続けます。
教育
昭和花子2の紹介
歯科医院を選ぶとき、皆さんは何を重視しますか? 「通院が便利」「スタッフの対応が良い」「清潔感がある」などが挙げられると思いますが、「治療がうまい」ということを重視される方も多いのではないでしょうか。
そこで当学歯学部では、学生の臨床技術向上訓練のため、教授・槇宏太郎を中心として歯科患者ロボット『昭和花子』を開発しました。これは日本初の取り組みで、患者様が意思とは無関係に反射する動きまで想定し、生体同等の動きを再現できる技能教育のための革新的なロボットです。
15年前、人の咀嚼力や筋肉の動きについて研究していた歯科矯正学研究室に、早稲田大学理工学部 高西淳夫教授の研究チームが協力してくれました。この共同チームで開発した試作1号機は、上半身のみで腕がなく、しかも口腔内の模型が非常に高価で、学生の実習に使えるようなものではありませんでした。
次に、工学院大学 高信英明先生のご支援のもとで、フルボディの試作2号機を開発しました。発話や腕の拳上機能ができ、眼球部分に動体センサーカメラが埋め込まれるなど機能が豊富で、皮膚を傷つければ出血までする仕様です。しかし耐久性に劣り、肝心の顔の部分の素材が弱く、実習で約100名の学生が使用したところ、口元がボロボロに裂けてしまったのです。
そこで、活用の場を想定し、機能を絞ってリアリティの充実を図ることにしました。そして2010年、皮膚に塩化ピニルを採用するなどし、耐久性とリアリティに優れたロボット『昭和花子』が誕生しました。
発話や表情で痛みを訴えたり、嘔吐反射を見せるなど、瞬きや首の動きにいたるまで、治療中によく見られる患者様の動きを再現できるため、歯学部の臨床実習や試験にも活用しました。
『昭和花子』はメディアでも取り上げられ、国内外から注目されましたが、2011年6月、教授・槇の「実際に患者様の治療を行なっているような臨場感こそ、臨床技術を向上させるための訓練となる」という信念のもと、皮腐素材をシリコンに改良した『昭和花子2』を新たに開発したのです。
『昭和花子2』は30語以上の発話が可能で、表情で痛みを訴えるのはもちろん、舌の動きや咳も忠実に再現できます。特に、メーカーの協力のもと採用したシリコン素材により、肌の質感はまるで本物の女性のような仕上がりです。
当大学歯学部の実技試験では、治療中に患者様(ロボット)が急に気分が悪くなったという設定のもと、表示された血圧を読み取り、脈拍を測るなど、不測の事態の対応まで行うことになっています。試験のレベルは高くなりますが、学生のうちから実際に患者様に接するような臨場感を味わうことで、技術を磨くことができます。
『昭和花子2』を使用し、歯科医師チームと臨床経験のない学生チームにトレーニングしてもらったところ、「本物の人間のようにリアル」と答えたのは歯科医師チームでした。つまり、実際に患者様の動きを知っている歯科医師ほど、その動きにリアリティを感じたということになります。
発表以来、『昭和花子2』は国内外のメディアや医療界から注目を浴び、世界各国の大学や医療メーカーが見学に訪れています。